あまり語られない通貨危機の解説、止まらぬ円安によせて
投機筋の通貨売りが集中して通貨危機が起こるが、最初の例はイングランド銀行対ジョージ・ソロスのクァンタム・ファンドが有名だ。
ポンドを売り浴びせてもイングランド銀行は最後には諦めざるを得ないとの読みで売り浴びせ、読み通りにイングランド銀行は負けた。ジョージ・ソロスの名を一躍有名にした事件である。
欧州為替相場メカニズム(ERM)に参加した英国が参加のために無理していたのを、ソロスはつけ入る隙と見なして仕掛けたのだが、理由はともかく、イングランド銀行の資金量を上回る資金量を投機筋が持っていなければ、イングランド銀行に勝つことなど到底不可能である。
この事件とその後の世界各国で起こった通貨危機の解説で触れられてないのは、民間の方が国家よりも資金量があるということである。
ソロス個人の資産はこの時点ではたかが知れた額しかない。しかし、ソロスのクァンタム・ファンドには民間銀行が莫大な額を融資していた。
ソロスのポンド売りに乗っかってポンドを売り浴びせた他のファンドなど投機筋にも、もちろん銀行から巨額の融資があった。それらの総合した資金量はイングランド銀行を楽に上回っていたのだ。
銀行の資金の根源は預かったお金、つまり預金だが、銀行は預かったお金以上の額を貸し付けることができる。なぜなら預かったお金が一斉に引き出されることはまず無いから、銀行は手元にわずかな現金を用意しておけばいいし、貸付は担保を設定するから、よほどのことがない限り100%の回収不能はほぼないからである。たまに通常の想定をはるかに超える回収不能が発生する場合があるが、それは金融危機と言われる。
このようなわけで銀行は預かったお金の何倍もの額のお金を貸し付けることができる。とは言え、度重なる金融危機の経験から銀行が貸し付けることができるお金は預金の何倍までと、現在ではバーゼル3と呼ばれる自己資本規制が定められ、貸付総量や内容に規制がある。
とは言え、この仕組み、預かったお金の何倍もの額を銀行が貸し付けることができる仕組みが、民間に先進国政府以上の資金量を持つことを可能にしている。
それはつまり、預金量が世界的にトップ10に入るような銀行が数行結託すれば、通貨危機を容易に起こすことが可能であり、国を崩壊させ得るということであり、これは強く指摘しておかねばならない。
かつてマレーシアのマハティール首相がソロスを「ならず者」と表現したが、その背景はこのようなものがある。