猫と音楽と経済と政治のブログ

猫を見ながらまったりと 音楽聞きながら軽い気持ちで、 経済と政治を気楽に語るブログです。 猫は見ている、猫は調べてる、 猫は政治の番人です〜 N・E・K・O、ネコ〜

「不器用なおばちゃんの愛すべきお店」経済を学ぶ短編小説

もう20年も前のことだ。


私は学校の新築工事に携わっていて、何日も仕事でその学校を訪れていた。


その建築中の学校は辺鄙な場所にあり、昼御飯を食べる場所に困る始末だった。


だから、みんな車で遠くまで食べに行っていたが、私はその近くの歩いていける駄菓子屋みたいなパン屋で、パンとカップラーメンを買って昼御飯にしていた。その方が時間を節約できる。


私がカップラーメンを買うと、店のおばちゃんが毎回毎回店の奥でカップラーメンにお湯を入れてくれる。場所が辺鄙なので店は暇だった。だから、サービスでお湯を入れてくれた。


おばちゃんは「いつまで工事が続くの?」といつも気にしていた。工事が続いていれば、その間は少しは売り上げが増える。おばちゃんはそれを気にしていた。


何日か続けて、そこでパンとカップラーメンを買っていると、店のおばちゃんが


「いつもありがとうね。お湯いっぱい入れておいたからね」


にっこり笑って、私のカップラーメンにお湯を入れて持ってきてくれた。


カップラーメンに入れるお湯には規定量があって、それより多くのお湯を入れるとスープが薄くなってよろしくない。どうも、おばちゃんにはそれが分かってないんだけど、いつも買い物してくれる私にサービスのつもりで、お湯をいっぱい入れてくれたんだろう。


不器用で間抜けなおばちゃんだけど、常連の私にサービスして明日も、また次の日も来てもらおうと思ってるのは分かった。おばちゃんにも家族がいるだろう。その家族のために頑張って売り上げを増やそうとしているんだろう。そんなおばちゃんの心が察せられた。


めちゃくちゃ薄味になったカップラーメンをすすりながら、明日もおばちゃんの店へ買いに行ってあげようと思った。もちろん、その時はカップラーメンのお湯の規定量を説明してあげるつもりだ。


チェーン店のファミレスで食べるより、おばちゃんの店で買う方が個人商店を支えることになる。チェーン店の売り上げを増やしても大資本が肥え太って、代わりに個人商店が潰れていき、貧富の差が拡大する。それを考えれば不器用で間抜けなおばちゃんからカップラーメンを買った方がいい。カップラーメンの味が薄くなったとしてもだ。


私1人が個人商店を贔屓にしても大した支えにはならないが、日頃からみんなが個人商店を支えることを意識すれば、少しは個人商店を支えることができ、世の中もその分だけ良くなる。少なくとも悪くなるスピードを遅くすることはできるはずだ。


そんな思いで、その学校に仕事で行くたびにおばちゃんの店でパンとカップラーメンを買い続けた。


あれから20年、


かつて建築中だった学校の前を車で通る機会があった。ハンドルを握りながらおばちゃんの店を目で探した。


あった!


20年前と変わらぬ場所に店はあった。


ひと仕事を終えて遅めの昼御飯を摂る。おばちゃんの店まで車で乗り付ける。20年ぶりに見るおばちゃんは少し太って丸顔になっていた。肌のツヤも落ちて老けていたけど元気そうだった。今は学校の生徒が少しは売り上げに貢献してくれるのか、経営できるくらいの売り上げはあるようだ。


「いい天気ですねえ」


私のことは覚えてないかもしれないけど、フレンドリーに気さくに話しかけてくる。おばちゃんのサービス精神は相変わらずだ。


「お弁当が1つ残ってるけど、すき焼き弁当。どう?」


おばちゃんが勧めてきた。


時間は2時を回っている。この時間じゃ、もう売れるあてはあるまい。私は最後のすき焼き弁当を買うことにした。それと珍しいペヤングが売れ残っていたので、それも買う。あとはお菓子をいくつか買うことにする。もうおばちゃんの店に来る機会はないかもしれない。気持ちだけでも少し多めに買ってあげたい。でも、ペヤングにお湯を入れてもらうのはやめた。もう昔ほど若くないから、1人前の弁当を食べた後にカップ焼きそばまでは入らない。ペヤングは後で家で食べることにしよう。


途中、コンビニの駐車場ですき焼き弁当を食べた。多分、おばちゃんが手ずから作った弁当なんだろう。少し時間が経って脂が悪くなってるのか、食べてて戻したくなる悪寒を感じたけど、お茶で口直しして何とか食べ切った。それから数日してペヤングも食べた。


これが去年のことだ。


それからおばちゃんの店の近くに行く機会はない。もうこのまま2度と行くこともないかもしれない。でも、個人経営のお店を見つけたら、大手のチェーン店よりもまず先にその店に行くことは今後も続けるだろう。


私の行く店にお湯をいっぱい入れてくれるようなキャラの立ったおばちゃんがいたら楽しいな、と思いながら。